自転車で他の自転車や歩行者、車とぶつかってけがをしてしまったとき、「交通事故の治療には健康保険が使えない」という話を耳にしたことがあり、公的な医療保険で受診していいものか迷ってしまう方もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、他人の行為によるけがであっても、公的な医療保険を使えるケースはあります。ただしその場合には、加入している医療保険へ「第三者行為による傷病届」などを提出する必要があります。この記事では、この制度がどういうものか、どんな手続きが必要か、そして注意しておきたい点を整理していきます。
この記事でわかること
- 自転車事故のけがで、公的な医療保険を使える場合があるかどうか
- 「第三者行為による傷病届」が何のための届出で、どんな場面で確認すべきか
- 協会けんぽの例で見る必要書類と、加入先によって手続きが異なる点
- 仕事中・通勤途中の事故や示談の前に、何を確認しておくとよいか
結論|自転車事故の治療でも健康保険は使える場合がある
「交通事故では健康保険が使えない」というのは、そのまま当てはまる説明ではありません。厚生労働省によれば、犯罪や自動車事故等による傷病も、医療保険各法において一般の保険事故と同じように医療保険給付の対象になるとされています。協会けんぽも、業務上・通勤災害に当たらない限り、交通事故やけんかなど第三者の行為によるけがであっても健康保険で治療を受けられると案内しています。
とはいえ、どんな事故でも無条件に使えるわけではない点には注意が必要です。第三者の行為によるけがで医療保険を使う場合は、加入している医療保険への届出が求められます。また、仕事中や通勤途中の事故で労災保険の対象になるケースでは、健康保険ではなく労災保険の適用を確認することになります。
この記事で取り上げるのは、公的な医療保険と届出手続きについてです。民間の保険会社が扱う傷害補償とは別の話になるため、入院・通院・手術の補償については自転車事故で自分のケガは補償される?入院・通院・手術の傷害補償を確認もあわせて参考にしてください。なお、個別の事故で実際に使えるかどうかは、必ず加入先の医療保険に確認するようにしましょう。
相手がいる事故では「第三者行為による傷病届」を確認する

「第三者行為による傷病届」とは、けがの原因に自分以外の人の行為が関わっていることを、医療保険の運営者(保険者)へ知らせるための届出です。厚生労働省も、第三者行為による傷病についてはその事実等を保険者へ届け出る必要があるとしています。
自転車同士の事故でも第三者行為になる場合がある
第三者行為というと自動車との事故を思い浮かべがちですが、それだけを指す言葉ではありません。協会けんぽは、交通事故やけんかのほかにも、他人の飼い犬によるけがなどを第三者行為による傷病の例として挙げています。他人の行為によって負傷したという点が共通していれば対象になり得るため、自転車同士の事故や歩行者との事故でも第三者行為に当たることがあります。
ただし、個別の事故が第三者行為に当たるかどうかは、この記事だけでは判断しきれません。相手がいる事故かどうか判断に迷う場合も含め、公的な医療保険で受診する前後には、加入先へ事故の状況を伝えて確認しておくことをおすすめします。
健康保険が負担した分は後から加害者側へ請求される
第三者行為によるけがでは、けがの原因をつくった加害者側にも損害賠償の責任が生じ得ます。医療保険から治療費が給付された場合、保険者はその給付費用の範囲内で、被保険者が加害者に対して持つ損害賠償請求権を取得します。そのうえで加害者側へ請求するという仕組みです。協会けんぽも、健康保険が給付した費用は後日加害者側へ請求すると説明しています。
この仕組みがあるからこそ、保険者は事故の状況を把握しておく必要があり、届出が求められるわけです。なお、加害者が判明しないなどの理由で請求が難しい場合でも、厚生労働省によれば、それを理由に医療保険給付を行わないということはできないとされています。車やバイクによるひき逃げ・無保険車事故で利用できる可能性がある政府保障事業については、自転車事故で政府保障事業は使える?ひき逃げ・無保険車で受けられる救済を確認で詳しく整理しています。
健康保険を使ったからといって、相手側への損害賠償請求自体がなくなるわけではありません。健康保険が負担した費用の範囲については、保険者が被保険者の損害賠償請求権を取得し、加害者側へ請求する仕組みになっています。相手側との治療費の精算を進める際は、加入先の保険者に確認しながら進めましょう。なお、過失割合や最終的な賠償額の判断については、この記事では扱いません。
健康保険を使うときは加入先へ連絡し必要書類をそろえる

実際に医療保険を使うときは、まず加入先へ連絡し、案内に沿って必要書類をそろえていく流れになります。手続きは加入している医療保険によって変わってくるため、ここでは共通する考え方と、協会けんぽを例にした具体的な手続きを分けて説明します。
まず加入している医療保険の窓口へ連絡する
医療保険には、協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険、後期高齢者医療などさまざまな種類があります。窓口や手続き、必要書類は加入先ごとに異なるので注意してください。自分の加入先がわからない場合は、資格確認書や資格情報のお知らせなどで確認するか、加入手続きを行った勤務先や自治体などへ問い合わせましょう。
協会けんぽでは、届書をすぐに提出できない場合であっても、まず電話などで事故の状況を伝え、書類は後日できるだけ早く提出するよう案内しています。書類が整っていなくても、まずは早めに加入先へ事故のことを伝えておくという考え方は参考になります。ほかの医療保険でも同じ扱いになるかどうかは、加入先に確認してください。
協会けんぽでは交通事故証明書などを確認する
協会けんぽでは、第三者行為によるけがで健康保険を使った場合、「第三者行為による傷病届」の提出が求められます。交通事故の場合は、交通事故証明書の添付が必要です。証明書の区分が「物件事故」になっている場合は、「人身事故証明書入手不能理由書」も必要になります。また、案内されている書類以外に、追加の添付書類を求められることもあります。
交通事故証明書は、自動車安全運転センターで申請を受け付けています。警察への届出がなされていない事故については、交通事故証明書自体が発行されません。警察への届出について詳しくはここでは扱いませんが、書類をそろえるうえでも届出の有無が関わってくる点は押さえておきましょう。
なお、これはあくまで協会けんぽの案内であり、すべての医療保険で同じ書類が必要になるとは限りません。
仕事中・通勤途中の事故は健康保険ではなく労災を確認する

けがの原因が第三者の行為であっても、仕事中や通勤途中の事故には別の制度が関わってきます。協会けんぽのよくある質問では、仕事中または通勤途中のけがは原則として労災保険の給付対象となり、労災保険の対象となる場合は健康保険を使用できないと案内されています。
配達など仕事中の自転車事故
配達業務の途中などで仕事中の自転車事故に遭い、労災保険の対象となる場合は、健康保険ではなく労災保険を確認することになります。厚生労働省の「確かめよう労働条件」でも、会社から指示された配達業務中に自転車で転倒して負傷した例について、本人の不注意による事故であっても労災給付の対象になり得ると説明されています。
労災保険の対象になるかどうかは、働き方や事故の状況によって変わってきます。自己判断で健康保険を使う前に、勤務先や労働基準監督署へ確認するようにしましょう。
自転車通勤途中の事故
厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、通勤途上の負傷について、一定の要件を満たせば通勤災害として労災保険給付の対象になるとされています。自転車についても、本来の用法に従って使用している限り、合理的な通勤方法の一つとして挙げられています。労災保険の対象となる場合、健康保険は使えません。
ただし、通勤経路からの逸脱や中断があった場合には、通勤災害と認められないこともあります。そのため、「自転車通勤中の事故なら必ず労災になる」とは言い切れません。自分の事故がどちらに当たるか判断に迷うときは、勤務先や労働基準監督署に、通勤の経路や状況を伝えて確認しましょう。
示談や治療費の受け取りは保険者へ確認してから進める

医療保険をすでに使った、あるいはこれから使う予定がある場合は、相手側との話し合いを進める前に、加入先の医療保険へ確認しておくことが大切です。保険者は給付した費用を加害者側へ請求する仕組みになっているため、相手側との間でどんな取り決めをするかが、その請求に影響する場合があるからです。
示談前に保険者へ相談する
協会けんぽでは、健康保険が立て替えた治療費を加害者側へ請求できなくなる事態を防ぐため、加害者と示談する場合には事前に報告するよう案内しています。金品を受け取った場合についても、同様に報告が必要とされています。
相手側から治療費を受け取る話が出た場合も、まずは加入先へ相談するようにしてください。治療費や修理費全体をどう確認すればよいかについては、自転車事故の修理費・治療費はどう確認する?物損・人身で整理したいことで扱っています。なお、過失割合や賠償額の判断についてはこの記事の範囲外です。
加入先によって手続きや必要書類が異なる
ここまで紹介してきた書類は、協会けんぽの案内に基づくものです。健康保険組合、国民健康保険、後期高齢者医療などでは、窓口や届出の様式、必要書類が異なる場合があります。
確認する際は、「第三者行為によるけがで医療保険を使いたい」と伝えたうえで、必要書類、提出先、そして書類がそろう前にすべきことを聞いておくと、その後の手続きがスムーズに進みやすくなります。
まとめ|事故後は加入している医療保険を確認して早めに届け出る
自転車事故によるけがであっても、他人の行為が原因であれば、公的な医療保険を使えるケースがあります。「交通事故だから使えない」と決めつけず、まずは加入している医療保険へ事故のことを知らせるようにしましょう。第三者行為による傷病届は、保険者が給付した費用を加害者側へ請求するための仕組みとして必要になる届出です。
ただし、仕事中や通勤途中の事故については、先に労災保険の対象になるかどうかを確認しておく必要があります。示談の話や、相手側から治療費を受け取る話が出た場合も、話を進める前に必ず加入先へ相談してください。書類や窓口は加入先によって異なるため、迷ったときはまず「自分の加入先ではどうなるのか」を確認するところから始めてみましょう。
参考情報・出典
本記事は、次の公的機関の情報をもとにまとめています。手続きや必要書類については、加入している医療保険の最新の案内を必ずご確認ください。

